【小説】日本SFの臨界点 恋愛編
今日は『日本SFの臨界点 [恋愛編]』を読みました。
早川文庫から刊行された本書は、伴名練氏があり得たかもしれない日本SFの姿を描き出す、という壮大なテーマの元に選んだいくつかの短編によって構成されている。
大袈裟な売り込みだが要するに、文庫等未収録の作品群を再発見しようという試みだ。
まず、前もって述べておきたいのは、伴名練さんのその熱量である。
前書きにおける、メッセージ。"(早く短編集を出して欲しいという)各社編集者へのメッセージかつプレッシャーである。"
下記、URLにあるようなやりとり。
https://twitter.com/shiozaway/status/1284849888660869120?s=21
その全てが熱を感じさせてくれる。
そもそも僕は、SFはじめ色々と小説を読むが、積極的に人と関わりながら読むタイプではなかったので、こうした裏話的な要素が入ってくると少なからずワクワクしてしまう。
もちろん、ビジネス的にも盛り上がるだろうと思う。盛り上がっていこう。
目録は下記の通り。
1. 死んだ恋人からの手紙 中井紀夫
2. 奇跡の石 藤田雅矢
3. 生まれ来る者、死にゆく者 和田毅
7. 人生、信号待ち 小田雅久仁
8. ムーンシャイン 円城塔
9. 月を買った御婦人 新城カズマ
以上、9作。
個人的に好きなのは『生まれ来る者、死にゆく者』『劇画・セカイ系』『人生、信号待ち』の3作。次点で『奇跡の石』。
結局、読みやすい/分かりやすい話が好きだったりする。
下記、ネタバレで紹介してみる。
人の命が確率的に存在する世界を描いた『生まれ来る者、死にゆく者』は、生まれて来る孫を死んでいく祖父に一目でも会わせようとする家族のお話。彼らの微笑ましい姿が目に浮かぶようだった。
著書の和田毅さんは、草上仁さんの変名ということで、『5分間SF』の作者でもあった。正直、"5分間〜"(泣けるだのわらえるだの)というものは9割方つまらないという先入観もあり忌避していたので反省。そのうち手を出してみようと思う。
『劇画・セカイ系』では、ヒロインがセカイ系の王道の通り、世界を守るため主人公を残して消えたその後の世界を描く。僕のようなセカイ系大好きっ子にとっては、悶えるような作品に仕上がっている。
エヴァの二次創作オタクだった自分にとっては間違いなく刺さる作品であり、自作のゴミ小説、屋上で幽霊に会う話を思い出して軽く呻いてしまった。
最後に『人生、信号待ち』を紹介する。
人生の中で信号待ちに費やす時間はいかほどだろうか?という問いに始まり、信号待ちに囚われた主人公とヒロインの人生が流れ出す。
人生なんて信号待ちみたいなものだという、"何事も突き詰めれば等しくなる"みたいなしょーもない発想をこうやって綺麗にまとめられるのはSFならではだと思う。
本書通して振り返った時に、講談社の戦後短篇小説再発見を思い出した。
あれは有名作家ばかりだからニュアンスは異なるが、こうした小説の中に、繋がりや可能性や色々なことを感じとったあの頃の自分を…。
なんていうと大袈裟だが、普段何気なく読んでいる小説群の中に、歴史や文化を感じた。
同人文化やSF大会など、僕の知らないところで作品が生まれ、語られているのだろうな、と思う。
なかなか、鹿児島から文化にコミットするのは難しいが、こうして記事にしてみる。